Day 7:6月3日(土)
 「ダーなかさん、ダーなかさん!」社長に揺り起こされて目覚める。---うぅぅ、眠い・・。
目を擦りながら部屋を出ると薄暗い中、ライダー達は駐車場に出て準備をしている。フラフラとフロントへ降りていき、朝のコーヒーだ。一口飲むと目が覚めてきた。
 レーススタートは午前6時。Bajaレースに出場する車両は事前エントリーだけでも314台。追加エントリーを含めるとさらに台数はさらに増える。順次出走してゆく訳だが、金沢監督の予測では我がチームのスタートはおそらく7時頃になるとのことだ。緊迫した空気が辺りを覆い尽くし、皆、黙々と動いている。
かつてレースに出ていたダーなかは少なからずライダーの心境が解るので余計な事は言わない。
 午前5時40分。203x、204x、504xのゼッケンを背負ったエンジンに火が入る。昨日の穏やかな笑みは消え失せ、ライダーの目は鋭さを湛えている。
僅かな霧雨の中、全車スタート地点:コンベンションセンターへと向かって消えて行った。

203x大室さん


204x及川さん

504x唐沢さん

早朝の霧雨の中
204xサポートバン出動
 一方、サポート隊も後を追うように出発する。何故ならレースが始まると国道3号線上のK12〜K19区間はコース区間となり閉鎖されてしまうからだ。その前にこの区間を通過しておかなければSantaCatarina(サンタカタリナ)のサポートポイントに間に合わない。一緒にスタート地点に行き、ライダーのスタートを見てから出発などという余裕は無い。203xと204xのサポートバン、504xのピックアップトラック、全車JOKERホテルを後にした。
---レースの無事を祈りつつ。
 共に出発したサポート隊であるが、各チームごとにライダー交替のポイントが異なるため、各車無線機で連絡を取りながらの個別行動となる。
204x車は最初のサポート(ライダー交替)地点であるSantaCatarina(サンタカタリナ:RM148.67)を目指し、Ensenada(エンセナダ)の山に向かって走り始めた。程無く霧雨は止み、K12ポイント付近で山の稜線から眩いばかりの朝日がその姿を現した。---サングラスを掛ける。
既に多くのサポートや観客が道路脇に車を停めて賑わいをみせている。

K12ポイント付近での日の出
(国道3号線上)
程無くコース区間を抜けた。安堵する。これで通行止めに遭う心配は無い。
車列はさらに先へと進み、OjosNegros(オーホスネグロス)を通過した。
この付近で203xは大室さんから工藤さんへとライダー交替するためサポートバンは離脱。いよいよ工藤さんのBaja出走だ。その心境は如何ほどであろうか。脳裏には悪夢の事故、皆の助け、そして一度は諦めたBaja出場などが過ぎっているのであろうか。
回復したとは言え、まだ“手負いの虎”である。無事のBaja走破を祈るばかりである。
 一方の204xサポートバンと504xピックアップトラックはさらに先へと進む。

Baja出走前の
工藤さん

SantaCatarinaへの途中
(国道3号線脇)
少し休憩しよう。---道路脇のTECATE(テカテ)ショップに車を停めた。
早朝の霞は見事に消え、一面真っ青な空が広がっている。草叢まで歩いてゆきメキシコ原野の大パノラマを眺めながらの“マーキング”。(小便)
一息ついて店を覗いてみるとそこは何もない空き店舗だった。振り返ると皆は朝日を浴びながら談笑している。梅村夫妻も一緒だ。
 時刻は7時11分。最初のサポート地点まではあと1時間とかからない。
のんびりした空気がカリフォルニアの大地に漂っていた。
 そろそろライダー達はスタートを切っているだろう。その光景を目に出来なかったことは残念至極であるが、その勇姿に思いを馳せる。

スタートを待つ
504x唐沢栄三郎さん


504x(XR650R)
唐沢さん
午前6時31分30秒
スタート

203x('02-'06WR250F)
大室さん
午前6時58分30秒
スタート



204x('06WR250F)
及川さん
午前6時59分0秒
スタート
 そうだ、国道3号線脇の写真でTECATE(テカテ)の看板が見えただろう?折角だからメキシコのビールについて少し話そう。ご存じかもしれないが(ダーなかは初めて知ったのだが---)、メキシカンビールにはコロナ、テカテ、ドスエキスなどの種類がある。その中でもテカテ缶は一番人気の超国民的ビールだという。確かにEnsenada(エンセナダ)の街のそこら中に『TECATE』の看板があり、今回のBaja500レースのメインスポンサーにもなっているのだ。そして、日本の「サッポロ(札幌)ビール」と同じく、Ensenada(エンセナダ)の北100km程の所にはTecate(テカテ)という街もある。 < メキシカンビール >
Corona(コロナ)
TECATE(テカテ)
Dos Equis(ドスエキス)
ダーなかはメキシコ滞在中、毎日TECATE(テカテ)かXX(ドスエキス)を飲んでいた。
 メキシコ人はビールの飲み口にライムを搾り、そこに塩をふって飲むという。日本の“枡酒(ますざけ)”で塩を盛って飲むのと似ている。絞ったライムはそのまま缶の中に押し込んでしまうのだ。JOKERホテルのベランダで、504xライダーの福村さんに教わってダーなかも試してみたが(塩は無く、ライムだけだったが--)、これが結構美味いのだ。口に入る瞬間のライムの香りとビールの絶妙なハーモニーが楽しめる。読者の方々にもぜひこの“メキシコの味”をお奨めする。
 さて、ビール好きの余談はこれくらいに、一行はSantaCatarina(サンタカタリナ)まで車列を組んで走った。ここで204xサポートバンは砂漠地帯へとハンドルを切る。一方、504xピックアップトラックは更に先のサポートポイントを目指して直進して行った。国道からダートに入ると車は揺れ始める。そして程無く最初のサポートポイント(RM148.67)に到着した。時刻は7時45分。バイク到着まで数時間はある。

最初のサポートポイント
Santa Catarina に到着
<午前7時47分>
204xサポートバンに乗車していたメンバーは、ライダーの高相社長、金沢監督、梅村夫妻、そしてダーなかの5名である。
「う〜〜ん」
ゆっくりとバンから降りて大きく伸びをする。
見上げると雲一つ無い気持ちのいい晴天だ。まだ午前8時前だというのに暑い・・。
周囲に目をやるとまだ人の姿は疎らであるが、

ピット設営をする四輪チーム
VILDOSOLAレーシング
目の前で四輪チームのサポートトレーラーがピットを設営している。
20人近くはいるであろうか。大所帯だ。

204xチームのピット
我が204x“ZZZZレーシング”チームも負けてはいられない。
早速ピットの準備に取り掛かる。
まずはバンの荷台からライダーにピットの位置を知らせるチームゼッケン標識を取り出す。
---Ensenada(エンセナダ)のスーパーでもらった段ボール箱に蛍光の包装紙を貼った手作りだ。
ちゃんと「204x」のシールも貼られている。

砂漠の風になびく
星条旗とメキシコ国旗
ふと横目で四輪チームのピットを見ると、なんと星条旗とメキシコ国旗が揚がっているではないか・・。
---負けてはいられない。YAMAHAの小旗とこれまたスーパーで買った“蛍光ホーキ”を立ててみる。
振り返ると今度は大きな無線アンテナが立ち、テントが設営されている。

砂漠の炎天下で待つ
梅さんとダーなか
---何を・・。パラソルを持ち出した。無線機はこっちにもある。
「プルン、プルン、プルルン」小気味よいエアーレンチの音が聞こえた。
・・・。そもそも此処ではライダー交替だけなのだからと負け犬の遠吠え。ふと気付くと梅さんはフラフラとその四輪チームのテントの中に入り込んでいる。どうやら同じ「204」ゼッケンということで応援依頼に行ったらしい。
VILDOSOLAレーシングの
ピットクルー達と梅さん
---我がチームはバイクなので末尾に「x」が付くのだがお構い無しである。
「もぅ、梅ちゃん、すぐ張り切っちゃうんだから・・」とは奥様なおちゃんの談。

バンの陰で休む
204xサポート隊
<午前9時2分>
 9時を過ぎた。次第に観客やサポーターの数も増えてきた。併し、本当に暑い・・。じりじりと照りつける日差しが突き刺すように痛いのだ。なおちゃんに借りた日焼け止めクリームが無かったら今頃火傷を負っていたかもしれない。
 まだバイクも車も1台も現れていない。双眼鏡を借りて彼方を見ても砂埃すら見当たらない。

双眼鏡で砂漠の彼方を
見つめる梅さん
「ヘリコプターが飛んでくるからすぐわかるよ」
誰かがそう言っているのを耳にして、ダーなかはふとあるDVDを思い出した。それは、ホンダワークスのジョニー・キャンベル、スティーブ・ヘンジベルド、それに4輪のマリオ・アンドレッティ、マクミランファミリー、ゴードンファミリーらの実像を描いたドキュメンタリー映画『Dust to Glory』(ダスト トゥ グローリー)というものだ。
渡米前にバイカーズドリームの店内で見たのだが、凄い迫力でBaja好きにはたまらないDVDだろう。---もっとも当時のダーなかには“豚に真珠”であったが・・。
その映像にはレースカーを超低空でヘリコプターが追うシーンがある。間もなくその

コースを横切る巨大な
サポートトレーラー
光景を映画としてではなく、自分の目で見ることになるのだろうか。そんなことをぼんやり考えていると突然目の前に巨大なトレーラーが現れた。それは裕に列車1両分はある長さで、途轍もなく大きい。国道から此処に来るまでのダートはサポートバンですら右に左にハンドルを切ってきたのだ。
一体、この巨体でどうやって辿り着いたのだろう。不思議である。ゆっくりとコースを横切るトレーラーは当に“威風堂々”だ。一度はハンドルを握りたい。見つめるダーなかはただ唖然としていた。---スケールが・・・違いすぎる。
 時刻は9時15分をまわった。と、にわかに周囲がざわついてきた。
ついにヘリコプターが現れたのだ!砂漠の彼方にハエのように小さな黒い粒が蠢いている。それは肉眼でも見えた。慌ててカメラの準備をして待つ。デジカメのダイアルを「MOVIE」に合わした。
 ヘリコプターは右に左に尾翼を振りながら低い上空を舞っている。次第にその影は大きくなってきた。そして地上には舞い立つ砂埃がはっきりと見えた。トップはやはり#1ジョニー・キャンベル車だろうか。
 いよいよだ。ファインダーを覗く。
録画を開始するや否やヘリコプターがダーなかの頭上を爆音を立てて通り過ぎた。その直後、バイクが猛スピードで目の前を駆け抜けていく。
 速い---。それは#6ロビー・ベル(CRF450F:American Honda)だった。
彼は歓声と砂埃を残し、贅沢にもヘリコプターを一機従えて砂漠の彼方に消えていったのである。時刻、午前9時18分。
---これは凄い。目の前で起こる全てが“映像”ではなく、ライブなのだ。ダーなかは全身鳥肌が立つのを感じた。暑さなど完全に忘れている。
十数分後、#1ジョニー・キャンベル車が恐ろしいほどの速さで通過した。ダーなかはその光景をファインダーではなく、自分の目で脳裏に焼き付けた。

トップで通過する
#6,Robby Bell
(WMV動画:779KB)

Robby Bell選手の勇姿
<午前9時18分>

203xサポート隊も合流
 その直後、OjosNegros(オーホスネグロス)で無事ライダー交替を終えた203xサポート隊が到着した。スタートを切った大室さんによれば、204x車の及川さんは先に行ったとのこと。無事のようだ。
ただ、バイクの後にスタートしたクアッド(ATV:四輪バギー)が早くも追いついてきて抜かれる度に目の前が真っ白になり何も見えなくなったという。
道中では多くのバイクが転倒していたらしい。減速せざるを得ないのだ。
 その後も数十分あるいは十数分間隔で次々とバイクが通り過ぎてゆく。日本から参戦したBajaチームの中で最も先にスタートを切っているのは504xのXR650Rを駆る唐沢栄三郎さんだ。昔からモトクロスをされている読者の方はご存知だと思うが、唐沢さんは元全日本モトクロス選手権国際A級ライダーで、1972年にはジュニア90cc、125cc、250ccの統一チャンピオンにもなった偉大な人なのである。

504x,唐沢栄三郎さん
(WMV動画:681KB)
<午前10時41分>
 現在は群馬県内のオフロード・モトクロスバイク専門店『MOTO SOUND』のオーナーであり、同時にエンデューロライダーとしても“現役”でご活躍されている。とても温厚な優しい方である。
 午前10時41分、504x唐沢栄三郎さんが砂塵を巻き上げてやってきた。
ピットはお祭り騒ぎである。梅さん、斉藤さん、高相社長らのサポーターはコース脇まで駆け寄って変な“踊り”を舞っている。
 そして唐沢さんは砂埃と共に砂漠の彼方へと走り去って行った。
 唐沢さんが通過したことで勝手に志気が高まったダーなかは“備え付け”の蛍光ホーキを持ち砂漠の彼方を見つめる。上空を一機のヘリコプターが通り過ぎていった。目の前を何台ものバイクが砂塵を撒き散らしてゆく。そして、ついにクアッドが現れた。これは取りも直さず204x及川さんが抜かれたことを意味する。---どうか無事でいてくれ。そう心の中で祈っていた。

蛍光ホーキを持つダーなか
とBaja大好きの梅さん

上空を通過するヘリコプター
(WMV動画:487KB)

炎天下でカメラを持つ手足は
真っ赤に日焼けする

次々と通過するバイク

知る知らないは関係なく
片っ端から応援するダーなか


クアッド(ATV:四輪バギー)
(WMV動画:586KB)
<午前11時8分>
 午前11時を過ぎた。204x車は来ない---。今頃何処を走っているのだろうか。転倒して怪我などしてはいないだろうかと心配になってくる。相変わらず暑い。サポートバンに飲み物を取りに戻ると高相社長は助手席でじっとしていた。ふと見るとダッシュボード上に家族と一緒に撮った写真が置いてある。
奥さんや二人の幼い女の子を含め、ダーなかにとっては決して忘れることの出来ない素晴らしい家族なのだ。自宅に招いてもらって一緒に食べた夕食。横手山頂ヒュッテで遊んだ時間。バイカーズドリームの店内で抱きついてきた子供たち。奥さんに教えたパソコン操作。どれもこれも最高の思い出ばかりだ。他人であるダーなかですらそう思うのだから、これから何が起こるとも知れない“戦場”に出てゆく社長の心境は察するに余りある。
 これはあくまでもダーなかの推測に過ぎないことであるが、今回のBaja出

ライダー交替を前に
(高相社長と家族写真)
場は決して社長自らが願い出たものではない。もっともオーストラリアの砂漠を単身で走破したりシベリアの氷河をスノーモービルで横断するくらいなのだから若い頃なら何ら心配することもなく喜んで走っていただろう。だが、彼には今“守らなければならない”家族があるのだ。二人きりでいるときに社長はよくこう言っていた。
「ダーなかさん、子供できると無茶できんのよ・・」と。
 ハーレーのカスタムショップの高相社長とひょんなことから出逢ってからまだ1年余り。社長がどう思っているかは別にして、ダーなかは何十年も昔から遊んでいるような感覚なのだ。その社長が今じっと黙って座っている。---声を掛ける必要は何処にも無かった。そっと水を取って車外に出た。
 外は灼熱の地獄だ。パラソルを持つ梅さんのところへ歩み寄る。「あ〜日陰って幸せ〜」である。目の前をバイクに混じってクアッドも走り抜けてゆく。
 時刻は間もなく正午になろうとしている。
「そろそろだぞ」---金沢監督の指示でサポート隊は動き始める。高相社長も着替え始めた。
ダーなかは交換するエアクリーナの準備が出来ているかなど再チェックする。
---大丈夫だ。
その時、目の前を#207のバイクが砂塵を巻き上げて通過して行った。
---いよいよだ。ピットに緊張感が高まる。
ダーなかは及川さんにピットを知らせるべく蛍光ホーキを握り締めてコース脇に立った。
 暫くして青いバイクが砂塵を巻き上げてやってきた。
「来た!あれだ!」
ダーなかはコースに身を乗り出して必死でホーキを振り回した。

出撃前の高相社長と談笑
するなおちゃんとダーなか
<午前11時58分>
ところが近づいてくると全然違う他のチームのバイクなのである。そのライダーは何があったのかと減速している---やってしまった、申し訳ない。わたくし、間違ってしまいました・・。
 程無く、また青いバイクがやってきた。
「(今度こそ・・・)来たッ!間違いない!来ましたッ!!」
もうさっきの何倍も必死になってホーキを振り回した。気付いてくれ---そう願いつつ。
ブレーキで砂塵が一層大きくなり、204x及川さんは止まった。

ピットインした204x車両
よかったと思う間もなく、エアクリーナの交換だ。カバーを外すと真っ白に汚れたエアクリーナが目に入る。予めオイルを塗布した新品をセットする。カバーを付けてOKだ。
ふと見ると既に高相社長はヘルメットを被り、ゴーグルも付けている。そしてバイクに跨るとあっという間に砂漠へと走り去って行った。
---何と声を掛けたかすら覚えていない・・。
遠く去りゆく砂煙を見つめながら「無事で」と祈るばかりだった。
 ライダー交替した及川さんはクワッドに浴びせられたであろう砂埃で“被爆”したようになっていた。ただ怪我もなく、無事であったことが何よりだ。
彼もまた一家の大黒柱であり、会社を指揮する社長なのだから。
 さて、204xサポート隊はこの後、203xチームのライダー交替を待たずにTrinidad(トリニダット)のサポートポイントへと移動する。時間的には余裕だ。
 交替した及川さんを乗せた204xサポートバンは国道3号線を南下する。
見慣れた風景だ。距離にして約30km。程無くして国道を逸れてダート路。

無事ライダー交替した
204x及川さん
ガタガタと揺られながら進み、プリランで下見をしたサポートポイント(RM256.95)に到着した。そこは数

Trinidadのサポートポイント
日前とは違った様相を呈していた。コース脇にはサポートトラックやバンが何十台も並び、ピットを設営している。
504xのピックアップトラックが見えた。すぐ近くに停車。クーラーの効いた快適な車から降りると熱気が押し寄せてくる。思わず仰け反ってしまうような暑さだ。見上げると“相変わらず”眩い太陽が燦々と照りつけている。所々に白い雲もあるが、併しそれは日陰を生み出せるような“パラソル”には為り得そうもない。クーラーボックスから水を取り出し口に含んだ。
 一方、203xサポート隊はSantaCatarina(サンタカタリナ:RM148.67)で苦難を越えてBaja出場の夢を叶えた工藤さんを待っていた。204x隊が移動してから30分は経過している。が、まだ来ない。
---「やっちゃったかなぁ」と話す大室さんと斉藤さん。
と、荒野の彼方から砂煙と共に青い203x車が現れた。204xに遅れること約40分。
併し、数日前に正面衝突の事故で負った傷を考えればその走りは“賞賛”に値するものだ。
---Good Job!
204x同様、エアクリーナを交換し、大室さんはBajaの大地へと駆けて行った。工藤さんの怪我の状態を考え、残りの区間は全て盟友の大室さんが走り切る。

Bajaを走った
工藤さん
 此処Trinidad(トリニダット:RM256.95)で待つこと数時間---。
今頃はMike's Sky Rancho(マイクス山)を激走しているのだろうか。クアッド(ATV:四輪バギー)やそろそろ追いついてくる“恐ろしい”モンスタートラックに接触などしないだろうか。そんな心配をしながら時が過ぎるのを待つ。
 時刻は午後2時になろうとしていた。とにかく暑い。地面を触れると、当に海水浴場の砂のように熱い。それもそのはず、日差しを遮るものは何一つ無いのだから。

Trinidadの熱く焼けた地面
<午後1時52分>
 面白い噂を聞いた。“犬”がBajaレースを走っているという。決して縫いぐるみなどではなく、歴とした“生きた”犬である。ヘルメットとゴーグルを付けスタートしたというのだ。しかもゴーグルはロールオフを付けているらしい。もっとも、犬がどうやってロールフィルムを巻き取るのかは甚だ疑問だが---。

ヘルメットを装着した
608x Rider, Mr.Dog


大歓声の中、
Ensenadaをスタート

灼熱の暑さと舞い散る埃が
容赦なく彼を襲う

砂塵の中、
彼の心境や如何に
 そんな信じ難い噂を耳にしている時、504xの福村さんが濛々と砂煙を上げて現れ、HONDAのサポートテント前に停まった。目と鼻の先にピックアップトラックやサポートバンがあるのでは?と不可思議に思う読者もいるだろう。ダーなかも一瞬そう思ったのだが、此処に来てからの数時間、そのテントを目指してピットインするライダーが多いのである。もっともBajaではXRかCRFが多数を占めるのであるが、HONDAはそれらのライダーをサポートしてくれるのだ。無論、事前に申し込む必要はあると思うが---。
HONDAのピットサポート
(写真提供:プロテックスポーツ
 ピットインした504x車のところにはチームメイトが駆け寄って行った。タイヤ交換やガソリン補給などはHONDAサポートに任せ、ライダーへの水の補給などを行う。素早くピット作業が終わり、午後2時3分、福村さんは再びXR650Rに跨り砂煙を上げながら山の彼方へと走り去って行く。
難関Mike's Sky Rancho(マイクス山)を走り抜いてきたとは思えない元気な後ろ姿だった。

HONDAサポートによる
迅速なガソリン補給


ライダーの福村さんと
キャメルバッグにも水を補給

HONDAサポートによる
タイヤ(ホイール)交換

ピット作業を終えた福村さん
(WMV動画:758KB)
<午後2時3分>
 その後もピット前のコースを何台かのバイクとクアッドが通り過ぎて行く。高相社長(204x車)が到着するまではまだまだ時間がありそうだ。
 梅さんとダーなかはピットエリアを見渡せる小高い丘へとゴツゴツした岩場を登って歩いて行く。ピットのすぐ近くだ。この丘に登ると遙か彼方から向かってくるレースマシンも眺められる。二人はそれぞれ大きな岩に腰掛けた。
---風がとても心地良い。
勿論、日差しを遮るものは何処にも無いのだが、ピットのような灼熱の熱気を感じないのだ。辺りにはそれを知ってか多くの観客が佇んでいた。遠くに砂煙が立ち上がる。その砂煙は瞬く間に近づき、そしてピット前を通り過ぎてゆく。幾度もこのような光景を眺めた後、水を飲みにサポートバンに戻った。

砂煙を上げて走り去る
クワッド(ATV:四輪バギー)
(WMV動画:1.21MB)
<午後2時23分>
 猛威を振るった灼熱の太陽も傾いてきた。此処に到着してからどれくらい経つのだろう。後を追ってきた203xサポート隊も既に到着しサポートバンは並んで停まっている。炎天下でウロウロしていたダーなかも次第にサポートバンの中で涼むことが多くなる。---何もしていないのに疲れを感じる。
時計は既に午後3時を過ぎている。そろそろ来る頃かもしれない。
 SantaCatarina(サンタカタリナ)のサポートではエアクリーナの交換のみであったが、此処ではタイヤ交換をしなければならない。重大な作業が待ち構えている。前後のタイヤそれぞれを梅さんと二人で分担して一気に交換してしまう予定だ。バイクは強化チューブに変更済みだが、焦ってタイヤレバーで傷付ければパンクの原因に繋がる。これまで数え切れないほどタイヤ交換をしてきたが失敗は絶対に許されない。油断慢心は禁物だ。既にピット作業に必要な物は外に出して準備は整っているのだが、再度チェックする。
 ふと気付けばかなり体が熱を帯びている。この炎天下にいれば当然だが少し体を冷やそう。
「あと30分はかかるな」サポートバンの車内で金沢監督の言葉を聞く。
涼しいクーラーに思わず目を閉じて「あと30分か・・少し休めるなぁ」と思った瞬間だった。
「来た!来たぞ!!」---車内に声が響く。
跳ね起きて車から飛び出すと204x高相社長が停まったところだった。---あ〜無事だ。と安堵した。
早速エアクリーナを交換しピット作業に入る。
「このまま行く。大丈夫。」及川さんの声が聞こえた。チラッと見ると“山”は十分に残っていた。
流石、プロテックスポーツの石井さんが推奨するタイヤ(DUNLOP D739AT Desert)だけある。さらに高相社長はモトクロスでの所謂“引っ掻き回す”走りではなく、しっかりと地面にグリップさせて走るライディングなのだ。同じようにタイヤを替えてもダーなかの3倍は持つ。これは逆にダーなかが如何に無駄なアクセルワーク、下手なライディングであるかを暴露するようなものでもあるが---。
そして程無く及川さんはヘルメットを被り、灼熱の彼方へと消えて行った。

マイクスを激走した高相社長
<午後3時36分>
 皆で遠く消えゆく砂塵を見送り、クーラーボックスから冷えたコーラを差し出す。高相社長はそれを手に金沢監督に「206x抜いて来ました!」と満面の笑みで話している。まだ興奮醒めやらぬといった感じだ。
「ダーなかさん、寂しいよぉ〜誰もいないんだもん」---申し訳ない・・・。
でも社長速すぎますよ(笑)
 マイクスの下りでは目の前を走っていたバイクが崖下に落ちていくのを見たらしい。また、崖に落ちていた幾人かのライダーが助けを呼んでいたのに
無視してしまった・・とも。頭から血を流していたYZのラテン系ライダーもいたが自分のことで精一杯・・。助ける余裕など何処にも無かったと---。
“恐るべし、Mike's Sky Rancho(マイクススカイランチョ)”である。
 その後程無く204xサポート隊は次のサポートポイントOjosNegros(オーホスネグロス:RM391.04)へと出発。結局、タイヤは交換しなかった。
 一方、大室さんの到着を待つ203xサポート隊は引き続きこのTrinidad(トリニダット)に留まっていた。

レーススタンドに腰掛けて
休憩する高相社長
203xチームにも此処でトラブルが起きた。大室さんは無事到着したのだが、エアクリーナーを外す際にシートレールを固定するロングシャフトが折れてるのが見つかったのだ。万事休す---。
併し、メカニック斉藤はEnsenada(エンセナダ)のホテルで解体した事故車両から非常用にと数点の部品を持参してきていたのである。早速そのパーツで緊急手術が行われ、203x車は約30分ほどで復活。大室さんは再びバイクに跨った。Bajaの太陽はゆっくり西へと傾いていた。
 さて、高相社長を乗せた204xサポート隊はTrinidad(トリニダット)を発った直後の狭いダート路で、続々と続く対向車に度々道を譲って停車した。そう、此らは四輪のサポート群だった。

Trinidad(RM256)へ向かう
四輪サポートの群れ
(WMV動画:1.4MB)
<午後3時47分>
金沢監督によれば速いトロフィートラックなどは此の辺りで追い抜いて行くらしいが、Trinidad(トリニダット:RM256.95)では1台も現れなかった。
「どこかで四輪に何かあったな」---ハンドルを握る金沢監督がそう言った。
急に四輪のサポートカーがTrinidad(トリニダット)に押し寄せることは如何にも不自然だというのだ。Mike's Sky Rancho(マイクス山)か何処かで大きな渋滞が発生し、順次時間をおいてスタートした四輪が一気に団子状態になってしまった。故にそのサポートも同じく団子状態で移動しているというのがその推理だ。
確かに空を飛ぶヘリコプターの数は増し、遠くに大きな砂埃も見える。いよいよモンスターの襲撃だ。
---及川さん、どうか無事で。心の中でそう呟いていた。
 そして、一路OjosNegros(オーホスネグロス)へと北上した204xサポートバンは午後6時前に最後のサポートポイント(RM391.04)に到着。陽は日没の準備をしていた。
我が204x特製の蛍光段ボールをコース脇に設置し、サポート準備完了。此処では高相社長へのライダー交替だけである。
 OjosNegros(オーホスネグロス)はEnsenada(エンセナダ)に近いこともあってか大勢の観客で賑わっていた。数日前の殺風景な景色とは大違いである。早速カメラを準備すると数台のバイクとクアッド(ATV:四輪バギー)が通過して行った。併し、国道3号線に近い為か速度を落としている。もっと迫力ある映像を撮ろうと、梅さんがダウンロードしたGPSデータを頼りに梅村夫妻と共に撮影ポイントを求めてコースを逆走、いや“逆歩”してゆく。
丁度良い感じのコーナーに辿り着いた頃、遠くにヘリコプターが現れた。砂

絶好の撮影ポイントを探して
埃も見える。バイクか?クアッドか?それとも---。
双眼鏡を覗いている梅さんが「四輪、四輪!めっちゃ速い!」と叫んだ。ついにダーなかもモンスターマ
シンと出逢うのだ。しっかりと映像に納めなければ--とカメラを構える。
ファインダーにヘリコプターを捉えた。録画開始だ。
「おぉ〜、めっちゃめちゃ速い!めっちゃめちゃ速い!!」と声を出す梅さん。
爆音が近づいてきた。は、速い・・。う、怖いッ!
(・・え〜い、撥ねられたらその時だ!逃げへんぞ!)
と思うと同時に強烈な風圧と砂埃に覆われ、一瞬何も見えなくなった。
---これをライダーは体験しているのか。当に“恐怖”だ。
通過したのはトップを疾走する#12(ブライアン・コリンズ)のトロフィートラック

爆走するトロフィートラック
#12 Brian Collins
(WMV動画:1.1MB)
<午後6時33分>
だった。その後も数分おきに続々とレースカーがやってくる。その度にOjosNegros(オーホスネグロス)には歓声の波と砂埃が舞い上がる。

疾走するバイクとクアッド
(WMV動画:614KB)

“誰との戦い”ではなく
自分自身と闘うライダー達

濛々と砂埃を上げて走る
トロフィートラック

ひたすら走る孤高のライダーに
走る“理由”など無い


大歓声と砂煙を巻き立たせる
モンスターマシン

夕暮れのOjosNegros
(WMV動画:1.21MB)
 時刻は午後7時になろうとしている。日没は近い---。
併し、観客の熱気は冷める気配は全く無く、夕暮れのBajaの盛り上がりを見せている。
広大な荒野を背景にしたロケーション。コース脇に立ってビール片手に観戦する者、ピックアップトラックの荷台に立ち上がって双眼鏡で遠くを眺める者、キャンピングテーブルを出してBBQを楽しむ者等々、皆それぞれ思い思いにBajaを満喫している。
---これがBajaの醍醐味だ。日本では到底味わえそうにない・・。
北海道の広い大地に陶酔し幾度も足を運んだダーなかであるが、此処は剰りにもスケールが違い過ぎるのである。世界を渡り歩いてきた梅さんや高相社長が“海外”に行きたがる気持ちが痛い程に解ってきた。(もっとも梅さんはBaja好きが為に移住までしてしまったのだが・・)
此迄、飛行機嫌いが為に渡航を避けていた自分の“愚かさ”を痛感する。
ダーなかはかつて経験したことのないこのムード、広大なロケーションに完全に陶酔し切っていた。
 約5分、ピットまで歩いて戻ると高相社長は既に着替えて金沢監督と最後のミーティング中だ。

最後の出撃を前にした
高相社長と金沢監督
<午後7時5分>
二人には笑顔も伺え、和やかなムードが漂う。
いよいよBaja最後の走行だ。ゴールのEnsenada(エンセナダ)までは約35マイル(60km弱)。時間にして約1時間。あと少しでFinishなのだ。
此処OjosNegros(オーホスネグロス)へと激走しているであろう及川さんがあとどれ程で到着するかにも係っているが、NightRun(夜間走行)に備え

談笑する204xチーム
て大型のヘッドライトも準備した。ただ、そのライトは1個しかない。
間違いなく203x車は夜間走行になってしまうだろう。であればこそ、204x車だけは日没までに、完全にメキシコの大地が闇に覆われる前に、Ensenada(エンセナダ)へ抜けたい。
---メキシコの太陽よ、今暫く、今暫くその姿を見せていてくれ。

Wild eyes(高相信明)
<午後7時8分>
時刻は午後7時8分。
Bajaラストランを目前にした高相社長の目は、優しいそれから厳しい“野生の眼”へと変貌しつつあった。メキシコの夕陽に照らされた姿は誰をも寄せ付けないオーラに包まれ、神秘的な様相すら湛えている。ダーなかは此の姿に“安心感”を抱く。緊張しているのでは?と思う方もおられるかもしれない。
だが、凡人のそれとは全く違うのである。
無論、ほんの僅かな瞬間に見せる“姿”である。あとは笑顔を保っている。
こればかりはどのように表現すれば良いのか判らないが、ともかくダーなかにとっては安心できる姿なのだ。---あぁ、これで大丈夫だ。無事帰ってくると直感的に思った。
 午後7時14分。高相社長はヘルメットを被った。Baja最後の出走に際してカメラを向ける。
「社長、何か一言」
「とりあえずロブスターは食べないとね」---昨夜食べたロブスターのことだ。
「今日はパスタ行こうか」---食べ物のことばっかりである。(笑)
笑ってはいるが目の奥に潜む“鋭さ”が垣間見えた。
ダーなかは笑顔でただ一言「待ってるよ。安全に」とだけ声を掛けた。
---夕陽に輝く204xのステッカーに“守ってくれ”と祈りながら。

出走前のインタビュー
(WMV動画:689KB)
 待つこと約5分。そろそろ到着してもよい頃だと思っている矢先に、突然パトカーと救急車のサイレンが響いた。コースを逆走して走り去ってゆく。歓声は沈黙へと変わり、何とも言えない嫌な空気が辺りを包む。
それが何処へ向かって走っているのか、事故なのか、それはレースカーなのかなど全く判らない。

走りゆくパトカーと救急車

及川さんを待つ高相社長
<午後7時20分>
---及川さん、無事でいてくれ。ただそう祈るばかりだ。

204xチームのライダー交替
(Trinidad)
それから約15分後。
砂塵を巻き上げて青い204x車が現れた!
---よかったぁ。心底そう思った。
早速ライダー交替に取り掛かる。まだ陽は落ちていない。夜間用のヘッドライトは203x車に残し、そのまま高相社長はバイクに跨った。そして夕暮れの中、ゴールを目指して走り去って行った。

いざゴールを目指して
(WMV動画:516KB)
<午後7時38分>
 無事帰還した及川さんによれば、
「何度かトロフィートラックやバギーに抜かれたけど、山側にへばり付いたりして必死で逃げたよ。

無事帰還した及川さんと
サポーターの梅さん
でも、抜かす時は容赦なんかしないんだ。石を飛ばす事など考えてない・・。一番怖かったのは後ろからスキー場の圧雪車のようなサイレン鳴らされて振り返ったらすぐ真後ろにいた時。
---殺されると思った。
通り過ぎた時は、埃で何も見えなく「ここはどこ?」って言う状態だよ。
日本で味わったことが無い埃。だって、ハンドルが見えなくなるような埃で一面真っ白。目をつぶってるのと同じ状況が5秒くらい続くんだもん・・・。」
聞いているだけでその恐怖感・緊迫感が伝わってくる。---よく生きて帰って来れた。
 一方、203xサポート隊もOjosNegros(オーホスネグロス)に到着していた。此までの状況から203x車(大室さん)が到着するのは夕闇の中となる為、サポートバンに非常警告灯(回転灯)を設置する。この紫色の回転灯は日本にしか売っていないらしく、暗闇での識別には絶好のものだ。
 午後7時44分。大型ヘッドランプを203x車の為に残し、204xサポートバンはメキシコの美しい夕焼けに向かってEnsenada(エンセナダ)の街へと向かって発進した。

非常警告灯を回す
203xサポートバン

暑いBajaの終焉を讃えるようにゆっくりとOjos Negrosの大地に沈む夕陽
<午後7時44分>

 Ensenada(エンセナダ)への国道3号線は渋滞し長い列を作っていた。順調に行けば204x車を駆る高相社長のゴールを写真に納めようと考えていたのだが、この渋滞ではとても間に合いそうもない。
まもなく市街地、片側2車線になった辺りでようやく流れ始めた。梅さんのハンディGPSを頼りにゴール地点であるスタジアムを目指す。付近はBajaの余韻醒めやらぬといった状況で、大勢の人と車で混雑している。程無く球場近くに辿り着いたが通行止め。警察官が一般車両の立ち入りを制止している。
さぁ梅さん登場である。と思う間もなく車を降りて警官に何か話し掛けている。併し、Baja出場車のサポートだと証明できるものは何一つ無い。“金”を払う素振りもなさそうだ。暫くして梅さんが戻ってきた。
---駄目か・・。一抹の不安が過ぎる。
「OK、OK!そこから入ってください」とハンドルを握る金沢監督に笑顔で告げる梅さん。
---梅さん、ホンマそのバイタリティには心底敬服する。一体どんな“魔法”を使ったんだ?
204xサポートバンは車止めの横をゆっくりと通り過ぎ球場の横に停車した。
 時刻は午後9時9分。球場に入ると其処は大勢の人が集まりレースカーの周りに群がっている。併し、高相社長の姿を見つけることは出来なかった。
「もぅホテルに戻っているんだよ。帰ろう」という声をぼんやり聞いていた。
やむなくサポート隊は一路JOKERホテルへとハンドルを切った。
社長に会えなかった寂しさがダーなかを包んでいた。
「(ガガー・・)こちら504x。204x応答願います。(ガガガー・・)」
---既にホテルに帰着している504xサポート隊の石田さんから無線が入る。

GOALの球場
(Ensenada)
<午後9時11分>
どうやら高相社長はホテルに着いているようだ。程無くして204xサポートバンは“我が家”JOKERホテルへと滑り込んだ。社長は既に着替えてさっぱりしていた。本当にBajaを走ったの?と言いたくなるくらいに余裕の表情なのだ。ほぼ予定通り、午後8時43分7秒。高相社長が駆る204x車はゴール。
 この頃、とっぷりと暮れた闇の中を203x大室さんは走っていた。四輪に抜かれる度に目の前は真っ白になり「ここはどこ?」の連続だ。ようやくOjosNegros(オーホスネグロス:RM391.04)に辿り着いたのは午後9時近くだった。最後のマシンチェックを行い、軽量化のためビッグライトは装着しなかった。
203xサポート隊(工藤さん、斉藤さん、加藤さん)に「次はホテルで」と誓い合って大室さんは闇の中へと吸い込まれていった。203xサポートバンも一路JOKERホテルを目指して発進した。
 一方、安堵感の中、一人でフラフラとホテルの駐車場を彷徨っていたダーなかは504xチームの福村さんに肩を抱かれ、飲みに行こうと誘われる。そして、二人で昨夜梅さんと偵察したBARへ入った。早速ビールを注文し、教えてもらったライムを搾って乾杯する。美味い。
---福村さん、本当に本当にお疲れさまでした。素晴らしい走りでした。心から敬服します。
 闘い終えた福村さんはとてもいい顔をしていた。が、まだ闘い続けている“戦士”がいる。
その203x車は夕闇のOjosNegros(オーホスネグロス)の村落を過ぎ、山岳地帯へと進んでいた。暫くすると全くの闇に包まれてしまった。方向も何も判らない。
---完全にミスコースをしている。30分程、闇夜を彷徨う。
民家を見つけた。住人にレースコースを教えてもらい、なんとか復帰。が、またミスコース・・。真っ暗な闇の中では小さなノーマルライトは豆電球のようなものなのだろう。後続の四輪でさえ間違ってしまうのだからミスコースをしない方が不思議なのかもしれない。1時間近くも大室さんは再三迷いながらその四輪と助け合ってオンコースに復帰する。リミットタイム“17時間”まであと僅か・・。
 そんな闘いが繰り広げられているとは全く知らないダーなかと福村さんはBARであれこれ話し込んでいる。と、石田さんも店に入ってきた。カラオケをすると言って曲目を渡されたが何と書かれてあるのかさっぱり解らない。今度は梅さんが夕食に行くと呼びに来た。
「飯食ってきます。帰ってきたら話しましょう!いてくださいね!」と言い残し、204xライダーの高相社長と及川さん、そして梅村夫妻とダーなかの5人で市内のメキシコ料理店に向かった。その店も何処かで情報収集したらしく、ハンドルを握る梅さんの手には地図があった。---また昨日のフロントマンか?
 その頃、203x大室さんは闇夜の中を必死で走っていた。そして意識も朦朧とし始めた時、見慣れた林道に出た。ようやくEnsenada(エンセナダ)に戻ってきたのだ。16時間前に通過した河川敷を走り、スタジアムへ。そして午後11時11分7秒、203x車ゴール。

Ensenadaのメキシコ料理店
<午後11時16分>
 時を同じくして、“メキシコ料理部隊”は店に到着する。既に午後11時を過ぎているのだが店内は大勢の人達で賑わっていた。
そして5人は“Baja完走”に乾杯をした。
ゆっくりと談笑しながらの本当に楽しい時間だ。
---皆が無事で本当に良かった。
ダーなかは高相社長や及川さんの笑顔を見ながら心底そう思っていた。
身も心も満腹になった一行は、店を出ると一路JOKERホテルへと帰った。
 さて、孤軍奮闘、闇夜に打ち勝った203x大室さんはゴール後暫く脱力感に襲われていたが、グローブやゴーグルを引っ張るメキシカンキッズに我に返る。そしてオフィシャルと交渉し、Baja完走の証であるフィニッシャーバッチを4個貰った。そう、支えてくれた203xサポート隊員の分も貰ったのである。
もう寝てるかな?---と思いつつも皆の待つJOKERホテルへと再びバイクに跨った。が、余程疲れていたのだろう。ホテルへの帰路でミスコース・・。結局、ホテルに到着したのは午前0時を過ぎていた。
彼の到着を心配して待っていた皆が駆け付け、無事を喜び、完走を祝福する。そして大室さんは感謝を込めてライダーの工藤さんとサポーターの斉藤さん、加藤さんにフィニッシャーバッチを渡した。
 皆が解散した後、梅さんとダーなかは“予定通り”BARの階段を下っていた。薄暗い店内には結構多くのメキシコ人達が座っていた。早速またビールを注文し、改めてBajaでの再会に乾杯した。昔話に花を咲かせつつ、渡米してからの出来事などいろんなことを話した。
 いろんな方向からチラチラと視線を感じる。なんだろうと思って聞いてみると、
「だってウチら“外人”だもん。気になってるんだよ。」と梅さんは言った。---確かに。
暫くするとカラオケが始まった。が、スペイン語は全然わからない。でも雰囲気は良かった。
暗がりに目が慣れてきた頃、聞き覚えのあるイントロが流れ、客の歓声が上がった。
カラオケのモニターに映し出されたのは『Hotel California』の文字だった。
「メキシコ人、この曲がホント好きなんだよ」と梅さんが説明してくれた。
ある女性客が歌い始めたのだが、英語がうまく発音できないらしい。
---ヤバイ予感がする・・なんとなくこの先どうなるかが読めてきた・・。
その予想は見事に的中した。カウンターの女性店員がこちらを指差して何か言ったと同時に一斉に視線が注がれ、拍手が沸き起こる。そして徐にマイクを持って向かって来るではないか。---マジか?!
チラッと見ると梅さん歌う気満々なのである。---やっぱり・・(笑)
マイクを受け取り、流暢なEnglishで歌い始めるとまた歓声が上がり客は大喜びなのだ。そして歌い終わると一人の男性が話し掛けてきた。その男性は店の女性客4人ほどを連れて此処に出稼ぎに来ているそうだ。
彼を交えて3人で、Bajaレースの話、バイクの話などいろいろと話した。日本の話題になると、身内が東京に住んでいたと言う。ただ理由はともかく、あまり良い結末ではなかった。---寂しかったのだろう。
 彼らが店を出た後もこの二人は延々と談笑し続けていた。ふと気付くと客の数がグッと減っている。
店員が精算シートを持ってやってきた。時計を見ると午前3時だ。そろそろ眠くなってきたから寝ようと店を出る。夜の空気がとても清々しい。メキシコの空気を思い切り吸い込んだ。
二人は一緒にホテルの階段を上がりながらもまだ話し続けている。
「ダーなかさん、明日、何時起き?」
「ん?わからへん。でもゆっくりするでしょ、たぶん・・。寝てたら起こして」
「了解。ほんじゃお休み」
「うん。お休み。ホンマ楽しかった。ありがとう!」と2階の25号室の前で分かれた。
 そぉ〜っとドアを開けると高相社長の演奏会(いびき)は終わってしまっていた。
ダーなかはまたピンピンに張った布団に体を押し込んで目を閉じた。Bajaレースが無事に終わった安堵感と疲労感が一気に押し寄せてくるのを感じながら当に落ちるように眠りに就いた。
誰かに「守ってくれてありがとう」と心の中で呟きながら・・・。
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